お知らせ
「耐震」を、教科書の外へ。
FIELDWORK REPORT 愛知県立鳴海高校 × 古田研究室
愛知県立鳴海高校の皆さんが、木造住宅の“壊れ方と守り方”を学ぶ一日
大学生活の本音トークから、耐震設計の歴史、研究の最前線、実験施設の見学まで。
知識が“自分ごと”へ変わっていく、問いの多い一日になりました。


もし、明日大きな地震が起きたら。私たちの家は家族を守れるだろうか
身近なはずなのに、普段はなかなか正面から考える機会のない「住まいと地震」。建物はなぜ被害を受けるのか。壊れにくい家には何が必要なのか。そして、揺れを乗り越えたあとも暮らしを続けるために、建築には何ができるのか。
こうした問いを入り口に、本学建築学部・古田研究室では、愛知県立鳴海高校の生徒の皆さんを迎え、日本の木造住宅における耐震対策を学ぶフィールドワークを実施しました。
この日のプログラムは、教授による講義を聞くだけではありません。現役大学生が語るキャンパスライフ、卒業研究の紹介、進路についてのアドバイス、研究や実験が行われる施設の見学までを一つにつないだ、いわば“大学と建築研究の舞台裏を巡るツアー”。生徒の皆さんの率直な質問が飛び交い、説明する側にも新鮮な気づきを与えてくれる時間となりました。
1|研究室との最初の接点は、大学生活の “ 本音トーク ”
フィールドワークは、古田研究室のメンバー紹介からスタート。最初に話したのは、研究室3年生の水谷さんです。大学生活の楽しさだけでなく、課題に向き合う大変さも含め、飾らない言葉で日々のリアルを伝えました。
高校生にとって“大学”は期待がある一方で、まだ輪郭のぼんやりした場所でもあります。だからこそ、年齢の近い先輩の言葉はぐっと身近に届きます。会場では、授業課題への向き合い方、単位の取り方、将来の進路など、具体的な質問が次々に寄せられました。

研究の話に入る前に、一人の大学生がどのように学び、悩み、前へ進んでいるのかを知る。そんな率直な対話が研究室との距離を縮め、その後の講義で“分からないことを遠慮なく尋ねる”空気をつくっていきました。

2|地震の歴史を知ることは、これからの住まいを考えること
続いて古田教授が、日本における耐震設計の変遷、大地震で生じた建物被害、その被害を大きくした要因について解説しました。耐震のルールは、机上で突然生まれたものではありません。過去の被害から学び、検証し、次の被害を少しでも減らすために積み重ねられてきた知恵です。
講義では、身近な住宅を思い浮かべながら取り組める簡易的な耐震診断も実施しました。専門用語としての“耐震”が、自宅の築年数や形、壁の配置、暮らし方と結びつくと、学びは急に現実味を帯びます。
“強い・弱い”を単純に決めつけるのではなく、なぜそのような被害が起きるのかを考える。原因をたどる視点こそが、安心できる住まいをつくる第一歩です。

3|大学生の卒業研究に触れる。 “難しそう”が“もっと知りたい”へ変わる
4年生の金松さんからは、卒業研究として取り組む「硬質ウレタンフォーム吹付けによる木造住宅のレジリエント化技術に関する研究」が紹介されました。身近な木造住宅を、地震に対してより粘り強く、回復しやすいものへ近づけるにはどうすればよいか。材料、構造、実験、シミュレーションを行き来しながら答えを探す、まさに研究の現在進行形です。
完成した答えを教わるのではなく、答えがまだ決まっていないテーマに挑む大学生の姿に触れたことで、生徒の皆さんの関心も一段深まりました。
・ この技術は、どのような地震を想定しているのですか?
・実験は大変ですか?
・数学が得意でなくても、シミュレーションに取り組めますか?
どれも、研究の本質に触れる質問です。研究は、最初から何でも分かる人だけが行うものではありません。分からないから調べる。予想と違うから条件を変える。うまくいかない理由を考え、もう一度試す。その繰り返しが、少しずつ新しい知見につながっていきます。

4|伝統的な木造建築と、ひとつではない進路のつくり方”へ変わる
技術職員(助手)の大串先生からは、現在取り組んでいる「伝統的木造建築の耐震性能」について説明がありました。新しい材料や技術だけでなく、長い歴史の中で受け継がれてきた木造建築に目を向け、その性能を研究の視点から捉え直すことも、これからの建築を考えるうえで重要なテーマです。
さらに、ご自身のユニークな経歴も紹介しながら、進路の決め方についてアドバイス。建築の学びの先には、設計、施工、研究、教育、技術支援など、多様な関わり方があります。今の時点で将来を一つに決め切れなくても、興味を持ったことを掘り下げ、人に会い、実物を見ることで、進みたい方向は少しずつ具体的になっていきます。
5|壊れた試験体は、失敗の跡ではなく、未来の安全をつくる教材
プログラムの最後には、実際の載荷実験を体験してもらう予定でしたが、先日の試験で装置に不具合が生じたため、今回は実施を見送ることになりました。その代わりに、実験施設を巡り、実際に壊れた試験体を間近で見学しました。
写真や映像で見る“破壊”と、目の前にある部材の割れ、変形、接合部の傷を自分の目で確かめることは、まったく異なる体験です。生徒の皆さんも引率の先生も、試験体をじっくり観察し、ときには触れながら、力が加わった痕跡を確かめていました。
実験で壊すことの目的は、壊すことそのものではありません。どこが、どのように壊れるのかを知り、その事実を次の設計や技術へ戻すこと。壊れた試験体には、未来の建物をより安全にするための情報が詰まっています。予定通りではなかったからこそ、研究が試行錯誤の連続であることまで含めて感じられる見学になりました。

この一日で持ち帰ったのは、知識だけではありません
教科書の言葉が、人の経験や実物と結びついた瞬間、学びは立体的になります。今回のフィールドワークで生徒の皆さんが持ち帰ったのは、耐震に関する知識だけではなく“分からないことを質問してよい”“研究は身近な疑問から始まる”“進路は出会いによって広がる”という感覚だったのではないでしょうか。
・ 耐震は、構造の数字だけでなく、人の命と地震後の暮らしを守るための考え方であること。
・ 研究は、疑問を持ち、試し、失敗から学び、次の仮説へ進む営みであること。
・ 大学には、授業だけでなく、自分の問いを深く追いかけられる環境があること。
・ 進路は、今すぐ一つに決めなくても、興味と出会いを重ねることで輪郭が見えてくること。
今日生まれた一つひとつの問いが、これから授業を受けるとき、街の建物を見るとき、自分の住まいについて家族と話すとき、そして将来を考えるときに、もう一度思い出されることを願っています。
